3ー3 Morning of muscular pain
ひかりさんのフォローが光る監獄編です(
拘束具をつけられ、朝から急かされ慌ただく洗面、朝食──そして。
「ここが教室かぁ……」
アーボックが至極嫌そうな顔をした。そして『ここでの私語は禁止だ』と刑務管からちょっと行きすぎた注意を受けた──つまり軽く叩かれた。
「てめッ」
人より短い堪忍袋の尾がプチンと切れたアーボックはすかさずやりかえそうとして──……
「……うぎゃあッ!───母さん……しくしくしく……」
当然こうなった。
二匹は呆れる。
((学習しろよ……))
長椅子と机、黒板が置かれた分かりやすい教室だった。
説明では『全うなポケモンに戻すための基礎的な教育、及び社会道徳』が行われるらしい。
(反抗しなければ大丈夫……という訳でもないらしいが……)
キーンコーンと音が鳴り。
『デスマーチ』と名高い『教育』が始まった──
空が茜色になるころ──やっと3匹は自室に戻った。
「……おれは地獄を見た……」
と、ドラピオン。
「……初日から殺す気か」
と、アーボック。
「情けないね、オマエたち」
──と、ニューラ。
「……強いな、ねぇちゃん」
ドラピオンが感心したような声を出した。農作業(職業訓練なのだろうか)までやらされるとは思わなかった……
「これくらいでへばる生き方はしてこなかったつもりだ」
「強いなぁ……」
その時、ガチャンと扉が空いた。
そこには繋がれたポケモンの姿。
「──新入り?」
監獄員は頷いた。
「気をつけろ。こいつは緊急でここに入れられた」
監獄員がそう言いつつそのポケモンの拘束具を外す。
……だが見た目はただのヨーギラスのようだが。
「……」
黙っているそのヨーギラスの印は顔を遮るように斜めについている。
「今日から同じ部屋だ。よろしくな」
ニューラが言う。だが……
「……」
素っ気ない態度で目すら合わせず立ち、壁に寄り掛かる。
「な、なあなんで……」
ドラピオンが語りかけながら近づく。
だが、ヨーギラスが目に見えない速度で腕を降るとドラピオンが後ろの壁まで吹っ飛ぶ。
「な、なんだ!?」
「な、何が起こって……」
(印が反応してない……!?)
ニューラはザキの言葉を思い出す。
『必要以上に攻撃しようとしたり、激昂で我を忘れたら』
(反応するわけか……ということはアイツ、反射的に吹き飛ばした……?)
ただ者ではない事を感じ、目を離さないようにする。
「このっ……!!」
アーボックがまた飛びかがるが……
「ぎゃああああっ!!」
印が発動し激痛が走ったのか叫び止まり、かつヨーギラスに吹き飛ばされ、ドラピオンの上に吹き飛ばされる。
「ちょっまっ!」
当然二匹の山が出来上がる。
(バカすぎるだろ……あと元気じゃないか)
【後28日】
───夜。
ニューラはイビキをかいて眠りこけてる二匹を眺める。
疲れきったらしくちょっとやそっとの事じゃ起きないだろう。
「……アンタ、寝ないの?」
壁に寄りかかって目を閉じていたヨーギラスが目を開きニューラを見る──が、やはり。
「……」
興味なさげにまた目を閉じる。
あれからヨーギラスはまだ一言もまだ話していない。無口にも程がある。
「───……」
ニューラは諦め、目を閉じた。
──朝。
「いでででっ!」
「……身体がギシギシ言いやがる……」
二匹が騒いでいるのを、ニューラとヨーギラスは冷めた目で見た。
「「…………」」
昨日と同じように教室に連れていかれると思いきや──……
眼前にはクロバット。
手には空の注射器。
診察室らしい小部屋だ。
(……モルモットだな……)
血を採取され、軽く身体検査を受ける。クロバットは書類にガリガリ書きこんで、ニューラを解放した。
次はドラピオン。
その次は……
「なに青くなってん「こういうの苦手で……」
「ガキか。早くしろよ」
アーボックはギュッと目を閉じた。針の先を見た日には……
「…………。…………? あれ、血液採取は?」
「アーボック、君は昨日、4回『攻撃の戒め』を発動させたね? だから、他とは違いちゃんと調べてみないと」
「!! ドラピオン助けッ!」
クロバットの催眠術!
ガクンっ、とアーボックは眠りに落ちる。
「アーボック───ッ!!?」
ドラピオンが慌てる。
「アーボック……!」
「お、落ち着け……!」
数匹でアーボックに近づけさせまいと道を塞ぐ。
その間にベッドごとどこかへ運ぶ……
「アーボック……」
(なるほど、模倣囚ポケモンでいるに越したことは無いみたいだね……)
その後、いつも通りのステップを踏んで『授業』へ。
だが、今回は朝から肉体労働の方だ。
よく分からない近場の鉱山へ行き、これまたよく分からない鉱石を掘ってこいと言われた。
(白っぽい石に透明な石、出来れば白半透明の石か……。結果次第で確かこの監獄内で使えるポイントが貰えるんだったな……上手く稼いで情報や信頼を稼げれば……)
きちんと大きな扇風機のような物で奥に酸素を送る装置――ファンやトロッコなども揃ってるし、適当な採掘道具ならあるが、それでも奥へ行くほど環境は劣悪、かつ暑く酸素も届かない。だがその分未採掘の貴重なものがあるらしい。
「あーぼっく〜……」
沈んだテンションでドラピオンはさっきからこんな感じだ。
(さて、脱獄するためには近くにある不思議なダンジョンの洞窟まで繋げ、騒動が起こす事も一つの目的だが……正確な位置はまだわかんないしな……それに、奥へ行き過ぎるとこっちが自分の力量が伸びる前に力尽きちまう。どこまで行きつつ探るか……)
ニューラはメソメソしてるドラピオンに続き中に入って行く。
「ゼ、零番!お前は一番奥で採掘しろ!」
ヨーギラスは道具を勝手に取って、ニューラの少し後ろに付いて行く。
(0番なのか……。それに場所指定とはね)
その後、適当に採掘をし、終わりの合図。
そして次の『授業』へ向かった……
「ただいま〜」
アーボックが帰ってきたのは昼の休憩時間だった。
「無事で良かった……!」
ドラピオンが一気に明るくなる。
「気持ち悪ぃ……でもあいつら『初めてだから特に念入りに調べた』ってたから……二度とされないといいなぁ……」
アーボックは病んだ顔で遠い目をした。元気がない。何をされたのだろうか。
「大丈夫だって、問題を起こさなきゃよ」
ドラピオンが励ます。
「無理じゃないか?」
ニューラに反発するかと思いきや、アーボックは地面に沈み込もうかという勢いだ。
「アーボック……」
「で?……何をされた?」
「……デリカシーないぜ、ニューラちゃん」
「誰がニューラちゃんだ。アンタ本当は元気だろ」
「…………」
ヨーギラスはそんな三匹を静かに見つめていた──
【後27日】