Endless ran
MADの続きです。
どうしてダンジョンから助かった途端またダンジョンに突入しなきゃならないんだ──思うことは多々あったが、引き返せない訳で。
「……うまい」
ニューラは落ちていた大きなリンゴをかじった。動かなければ時間も動かない。焦りは禁物だと先のダンジョンで学んだ。
「″きりさく″ッ!!」
目の前のポケモンが跳ねて消え去る。少し離れた所のポケモンに見つからないよう壁に張り付き息を殺した。
階段を見つけ、登る。
代わり映えのない次のフロアにニューラは溜め息を吐いた。
その時だった。
(───……声)
ぴくり、とニューラは耳を動かした。
この声は、まさか。
悪い予想は的中し、現れたのは──……
「ハッケン! 逮捕シマス!」
──ジバコイル保安官と部下のコイル。
(……ッ!! 階段まで逃げ切れれば……)
逆方向へ駆けた。
今の自分にジバコイルを倒すのは無理だ。相性が悪すぎる。
最悪なことに──次の部屋に階段はなく、通路は一本のみ。
行くしかないが……回り込まれたらお仕舞いだ。
通路を少し進んだところで──保安官と別ルートをとったらしいコイルが立ちふさがった。
このままでは挟み撃ちだ。
ニューラの少し後ろにはジバコイルがいるだろう。
手元には──……
(投げても……いや……そうだ。運だめしだが──)
こんなところで捕まっているようでは、自分はお尋ねものに向かないということだ。
本物の″悪党″は、悪運を兼ね備えているものだ──
ニューラは、その″ワープのタネ″を───食べた。
そのころ、そんなピンチに陥れた゛原因゛は……
「さて、気に入ってくれたかな、ワタクシからのプレゼントは」
その時、洞窟の方から砂埃と猛烈にダッシュしてくる音が。
「ザァァァァァキィィィィィ!!」
恐ろしい形相で跳び蹴り……
だがニャルマーはひらりとかわす。
「……ええい、やっぱりアンタか!」
外したものの、ニューラは身を翻して着地する。
「身のこなしが軽くなって来てるようだね」
ザマス眼鏡をクイッと持ち上げる。
「一体お前何したいんだっ!」
「良い勉強になったでしょ」
会話が成立しない。
「…………で!ここは!?」
「ワタクシの庭」
「まだかっ!」
「そうだね……まあ後6つほどダンジョン越えれば着くはずだけど……どうだっけねえ」
「……お前の私有地どこまであるんだ」
「ざっと都市一つの面積」
「……庭は!」
「大都市の区2つくらい」
ニューラは、そんな事を真顔で言うこのザマスメガネをいい加減殴ってやろうかと思った。さっき跳び蹴りしたが。
「さ、バッチも持ってきたから侵食の恐れも無いし、バックヤードもある。さあ行こうか」
「お前と一緒!?ゴメンだね!」
「道はワタクシしか知らない」
「……最短で行けよ」
「急ぐねえ」
「当たり前だ!2日だぞ!2日も……は……」
ニューラは小声で何かを呟く。
「まあ必死みたいだし、行こう行こう」
まったくもって掴み所のないこの泥棒猫、これだけの地主なら知ってるはずだが……とニューラはさっきから考える。だが、どうにも思い出せそうにない。
(確か……なんだった?アイツ……。いや、今は先を!)
急いだものの道半ばで夜になり──ニャルマーは至極元気だったが、ニューラは疲れの色を隠せなかった。
「このまま無理矢理行ってもまた倒れるだけだろうし、近くの館で休もうか」
「幾つあるんだ」
「10ほど」
突っ込むのにも疲れ、何を言っても無駄だと悟ったニューラは半分諦めてザキの後に続いた。
流石に異名をとるだけあって、ダンジョンのポケモンはザキの″通常攻撃″で易々と振り払われていく。
「ついたよ」
煉瓦造りの家が木立の中に突如現れたように建っていた。
扉にはニャルマーのシルエットの模様が刻まれている。
ニューラが家に踏み込もうとした時だった──カチリと。
(───!?)
嫌な音が、した。
「そこ踏んだら罠起動するから注意して──あ」
「遅いっ!!」
そしてニューラは降ってきたオリに閉じ込められた。
「出せ!」
「そろそろそのぐらい自分で解決できるようにしたら?」
ニャルマーは必ずと言って良いほど罠にかけ、そして助けださない。
(何が狙いだ……!)
もはや反抗しても意味が無いのは分かりきってるので、突破口を探してみる。
「……ここ!」
長い間使われていないのだろうか。
オリの所々が壊れて来ている。そこを狙って゛きりさく!゛
どんどんとオリが壊れてきて、オリが悲鳴を上げる。
「ここだ!」
ニューラは中央を蹴り破り、オリから脱出する。
「はーい、お見事30点」
「どっちだっ!」
そんなツッコミも気にせず、いつの間にかミルクティーを飲んでいる。
(だからその足でどうやったっ!)
「さて、今日の戦利品を確認しようか」
心のツッコミもスルーして、机の上にバックヤードの中身を両足で丁寧に並べはじめる。
(もうそろそろ三日目……大丈夫かな……アイツら……)
その光景を眺めてつつ、壁に寄り掛かって思いにふける。
机の上にはおおきなリンゴやリンゴ、くろいグミ、しろいグミなど、さらに誰が落としたかリボンが複数とポケ少々。
「うん、まあまあの収穫じゃない?」
「ん?ああ、しろいグミは先約な」
「それワタクシの好きな方……」
「くろいグミはやるから」
「それはキミの好物では?」
「ワタシの事は良いんだよ。あとリンゴ系と金目になりそうなやつも先約」
「ふむ、変な事にこだわるよね」
あれとこれとと言いながら、ニューラの取り分とニャルマーの取り分を分ける。
(待ってろ……!)
「さて、お楽しみの食事タイムにしようか」
「そろそろ眠ろうか」
食後、何だか高級そうなベッドにニャルマーは横になった。
ザマス眼鏡は外して置いてある。どうやら伊達眼鏡らしく外しても見えない訳ではないらしい。
髭を撫で、顔を洗い、バネの尻尾と身体を伸ばして、ザキは目を閉じる。
「そこのベッドをどうぞ」
ザキが目を閉じてる間にニューラは今日一日分の怒りを込めてぶん殴ってやろうかと思ったが、全く隙がない。
(ちぃッ)
心の中で舌打ちし、自分の取り分をワラの下に押し込んで、ニューラも横になった。
「結局、アンタが何がしたいのか分からないままだったけど……お尋ねもの同士で馴れ合う積もりはないからね」
「ふふ、厳しいねぇ」
何故かニャルマーは笑った。
「ここから出れたら、もう用はない──……」
ニューラも目を閉じた。
色んなことが有りすぎて疲れていたし──ザキにこれ以上何か言う体力を温存しておきたかった。
やがて聞こえる寝息。
ニャルマーはそっと呟いた。
「──まだまだ、これからさ」
朝早い……ほぼ夜の時間。
「よし、逃げよう!」
いきなりそうニャルマーが叫んだ。
「はい、荷物まとめて全力疾走!」
「一体何……」
ニャルマーはちゃちゃっと荷物を集めて、もはやさっさと外へ出ようとしている。
それを見てニューラも先約した物をとにかくかき集め、身近にあったバックに詰め込み、「じゃ、お先」とか言ってるニャルマーの後を追う。
扉を勢いよく飛び越え、どこにあるか分かりづらい罠のありそうな位置を避けて走る。
その時……
後ろから猛烈な爆進音が。
「ぬあッ!」
少し吹っ飛ばされて、空中で一回転した時、とんでもない物を見る。
(なんだ……ありゃ……!)
着地してすぐに駆ける。
「オイ、あれってなんなんだ!」
ニャルマーが近づいてきて一緒に走る。
「見ての通り、ここいらのポケモンが一斉に動き出した。それだけ」
「なんでだよっ!」
「さあ……希少な出来事ではあるけど、多分また不思議なダンジョン発生したからじゃない?」
「またって、お前の庭はどれだけ自由なんだ……」
「そもそも、庭って気づかれずにかなりの野系ポケモンたちが勝手に生態系作っちゃってるしね。そこ右折」
「右!?左は?」
「崖。キミみたいに勝手に入っては勝手に倒れちゃうポケモンもいるし……まったく困ったもんだ」
「あの森アンタの庭だったのかっ!」
少し間置いて、器用にも走りつつザマスメガネをクイっと持ち上げる。
「もちろん。そこ跳んで」
狭い崖を、微妙な足場をたよりに跳んで行く。
「まったく、何から逃げてるんだ!?」
「怖いのさみんな。得体の知れない物に巻き込まれて今後ただ外敵を喰らうように襲うだけの存在になるのが」
「……言えてるな」
「さーて、休む暇もなく次なるダンジョン突入、準備良い?左折」
「左折……火山!?」
今までは騒動で気づけなかったが、この先立派にマグマを噴き出す現役の火山がある。
「いやあ、ダンジョン化してからすっかり元気になっちゃって、まあ周りに被害が及ばないのが幸い?」
「ちょっ、待てッ、ワタシは……」
「氷タイプ。でも一番便利な時にあるんだから」
「お前はどれだけムチャぶりしてるか分かってるのかあぁぁぁ!!」
絶叫も虚しく、何とか騒動に巻き込まれないようにギリギリに走ってるため、自然と火山へと向かうハメになった……