Undercats' contention
脱出へ……
「暑い……」
火山内部。
ところどころからマグマが吹き出すダンジョンにニューラはすっかりまいっていた。
ザキが言うに、この火山とあと一つダンジョンを越えれば出れるらしいが……
流石、山だ。
今までのダンジョンより深い。
だらだらと止めどなく流れる汗をニューラは腕で拭った。
「一匹だけ涼しい顔をしやがって……」
「元気ないなぁ」
「出るかッ!!」
言い返した時には、目の前に『ひのこ』を放とうとしているアチャモの姿。
(───くッ)
ニューラはザキの後ろに飛び込んだ。必然的にひのこをザキは──顔面に喰らった。
「あちちッ」
台詞の割に大して熱そうではなく、ザキは″乱れ引っ掻き″でアチャモを倒し、ザマス眼鏡を外して、肉球を舐めると顔を洗って煤を払った。
そして眼鏡をかけなおし振り返る。
盾にした文句でも言うのか、と思ったがそうではなく。
「うん。確か……そろそろ奥地。気を引き締めて」
ニューラは聞き返そうとしたが、ザキはさっさと先に進み階段を登る。
次のフロア。
一部屋のみの──奥地だ。
「さっきの台詞──」
ニューラの問いに答えるまでもなく、現れたのは。
「先日は正気だったのにまたダンジョンに呑まれたようだね」
明らかに狂ったブーバーン。
「ザキッ! 聞いてなっ」
ニューラの足元をブーバーンが放った炎の塊が穿った。
「何とかしろ!! オイッ!」
ザキは意地悪く目を細め、ザマス眼鏡をクイッと上げた。
「ワタクシには彼の強さも弱点も全て分かってる。だから恐れてはいない──でも、ワタクシが倒すとアナタの勉強にならないでしょ?」
ニャルマーは軽く跳ねて炎を避ける。
「頑張って。アタマを使えばアナタにも勝てるはずだから」
(ムチャがあるだろ……!)
ざっと見ても、まず相性が不利、レベルは劣り、なおかつ基本的な攻撃技ばかりだ。
(こういう時は……)
ホコリ高き盗賊72条
敵の動きをよく見る事だ。相手は容赦はしてくれない。
(正面に敵を捕らえず……)
左へスライド移動して、敵が射程できない位置に入る。
敵も移動するかと思ったら……また炎弾を打ってきた。当然外れる。
「こいつ……もしかして……」
(『先日は正気だったのにまたダンジョンに呑まれたようだね』……ようは何かしら動けないワケがあるんだ。前正気に戻ったということはさっさと抜けちまえば良いはず……ということは……)
バックヤードの中身を探ると、石が多数余っている。
ニューラの顔が悪魔の微笑みを宿した瞬間だった。
〜しばらくお待ちください〜
「───おはよう」
タンコブだらけになって気絶していたブーバーンはニャルマーの声で目を開けた。
「リィ……」
「ちっちっ。今はザキ」
ザキは指を振り、ザマス眼鏡をクイッと上げる。
「またオレは……呑まれたのか。ザキ様にボコられて気がつくのは何度目だ……」
「いや、今日はこの子が」
ニャルマーはニューラを前足で指した。
ブーバーンはニューラとニャルマーを見比べて、何故か苦々しい顔をする。
ニューラは首を傾げる。
「……どうしてこのダンジョンから出ないんだ?」
答えたのは、ザキ。
「彼はこの不思議のダンジョンから『主』に選ばれたものを守ってるからね」
ブーバーンは、後ろを振り返った。燃えないワラを掻き分けると──現れたのは、一つのタマゴ。
炎の模様が刻まれていて、たまに動いているようだ。
「ダンジョンと同時に現れたタマゴだ──もうすぐ孵るはずだが……産まれれば、このダンジョンを守る主になるはずだ」
「主?迷惑しかかけない世界の主が必要なのか?」
「まあそう言うなって」
「本来、必要ではないはずのものも時には必要なのさ姉ちゃん」
「誰が姉ちゃんだ」
ニャルマーがタマゴをそっと撫でる。
「歪みからしか産まれない命もある。正常でしか存在できないとしてもね。ここは火山。放っておけばいずれ異界の壁を破って森を焼き払う。そうならないように統制する存在も時には必要だよ」
普段より非常に重く言った。
ニューラはそれは気になったが、見えない壁があるような気がしてなんて言えば良いかは分からなかった。
「さあ、急いで出るよ!」
ねこだましの勢いで前足を景気よくたたき合わせて、軽い口調で空気を再び動かす。
「──気を付けてな」
そうして二匹は火山を後にした。
次の、最後のダンジョンは──……
「この川を越えたら敷地の外」
「水のダンジョンか……」
「ま、火山が一番の難所だったから──アナタにはもう簡単だろうけどね。さ、行こう」
ザキの言っていた通り、遠隔技の泡に気をつける程度で──ニューラはダンジョンを越えた。
(やっとか……あいつらのところに急がないと──……)
「……って」
ニューラの視線の先にはザキ。
案内が終われば帰るとばかり思っていたのだが──……
「何でついて来る!?」
「いいじゃない」
逃げようかと思ったが自分ではニャルマーを撒けないだろう。
「──何かあったら、アンタでも容赦しないからね」
「ワタクシは紳士だけど?」
「嘘をつけッ!!」
「――結局ここまでついてきやがって」
「そうカタいこと言わないで」
あの時逃げていたとはいえ、街外れがあの森だったというだけで庭の境界線を越えた先からしばらく歩けばなんとか着いた。
「へえー、立派な所に住んでるじゃない。地方都市の一つ、【ヘーベルガーデン】じゃないか」
そこは地方の村や町に比べるとあまりに壮大で、なおかつ文化が集中している場所だ。
無造作に次々とより高い建物が建てられ、どこまで行っても建物が広がる。
地面は歩きやすいようだいぶ固められており、石でつまづく事も少ない。
いくつかの区に別れており、まず田舎から来たポケモンはカルチャーショック間違い無しの大都会だ。
゛ガーデン゛――直すと、庭。その名がつくだけあって、他の新興都市と比べて自然との調和を大事にしてある。
至る所に水を引き、草木あふれた道も多く、大公園は自然の宝庫だ。
…だからこそニューラも森に突っ込んで巻こうとしたのだが。
「……ついて来るなよ」
「なんで?」
「家に帰るんだからプライバシーの問題だ!」
「そう……まあ、どの街に住んでるかは分かったし、良いか」
今度はやけにあっさり引き下がった。
「……何か企んでるのか?」
「いや、ただ暇じゃあないだけさ。表の顔もあるからね」
「金持ちが誘拐でもされたら大ニュースだな!」
悪そうな笑みを浮かべる。
「そ、そ。そういうこともあるしね」
そういってニャルマーは冗談を適当にあしらって逆方向へと歩んだ。
(さて、早くいかないとな……)
そのころ、ニャルマーが呟く。
「そっちの方向に唯一あるのは……」
(スラム街に!)
「スラム街、だけ。だいたい分かっちゃった」
痩せ細ったポケモンが道端に倒れ、あちこちから怒声が聞こえる。
整備されてない道は砂利だらけで、崩れかけた建物に蔦が絡まっている──……
都市の影、スラム街。
過去の繁栄は見る影もない。
通称″捨てられた街″(ダストタウン)
太陽が西に傾きかけた昼下がり、ニューラはスラム街の中心部──彼女の家の隠された入口に手をかけた。
「──っと!」
扉を開けた途端、ニューラに飛び付いてきたのは、オタチ。
顔の右半分が包帯に覆われている──少し前にあるポケモンに傷つけられたものだ。
「おかえり! ねぇちゃん!」
まだ子供の一回り小さい彼の頭をニューラは優しく撫でた。
オタチを追いかけてきた、ヒメグマとピィがニューラを見て顔を綻ばせた。
「3日もいなくなって……つかまったとおもったんだからね」
彼ら彼女らはニューラと同じこのスラムで育ったポケモンだ。
彼等の中で最年長でありリーダーでもあるニューラは、彼等の元気な姿に久しぶりに笑った。
「悪かった……大丈夫だったか?」
「うん!」
オタチは頷いたが……
くるるるる
──とお腹の音が盛大に鳴る。
「──ご飯にしようか。今日は″しろいグミ″もあるんだ」
「ホントかい!?」
「ホントホント!?」
どこからかの穴からコラッタの兄弟がはい出てきた。
「ビックスにウェッジ!相変わらずちゃっかりしてるなー!」
猫と鼠が仲が良いのは世間的には変だが、スラム街ではそんな悠長な事を言うポケモンはいない。
「ノラ、ルインは?」
ノラと呼ばれたのは包帯オタチだ。
「そ、それが……」
なんだかみんな顔を伏せる。
「まさか……」
「なーんて、また『オレを風が呼んでる』ってどっかいっちゃっただけじゃないの!」
モノマネしてみせたのはピィのサー。
「そうそう、あのナルシストポッポもうこれで27かいめだよ!」
お腹を抱えて笑いつつ、スラム街出身にしては珍しい゛数が数えれる゛のはヒメグマのフェイス。
「だーましーたなー、コノー!」
今までみせたことのないとびっきりの笑顔でまとめて腕で囲う。
アハハ……―――
食事後、サーが何かを思い出したように、はっとする。
「どうした?」
「そういえばね、ここらへんにいっぱいあった紙。みんな見るとすごく怒って破いちゃうから、取っておいたの」
サーから受け取った紙を見て、ニューラも゛すごく怒る゛例にもれなサーから受け取った紙を見て、ニューラも゛すごく怒る゛例にもれなかった。
「区画整理のお知らせ……!?」
聞こえは良いが、区画整理とはそこを綺麗にしてしまう、ようはスラム街の撤去という事だ。
当然そこの治安は良くなるだろう。とてつもなく高い値がつく建物が建ち並び、自分達スラムをゴミのように追い出す事で……
「ごめん、ねぇちゃん行くところできた!」
「……帰ってくる?」
「もちろん!」
紙を持ち、家を勢いよく出る。
(スラムはバカともっとバカとちょっとしたもの奪うだけなのに……のバカ貧乏ばっかりだが……こんなかで一番のバカ野郎なら、頼むのはシャクだが出すとこ出すにはあのバカしかいない!)