Value of existence
中盤あたりです
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EPISODE2
Value of existence
ヘーベルガーデン‐WAST
5つに別れたうちの西の区画、様々な職業を生業とするポケモン達の集まるところだ。
そしてその中で一番高くそびえ立つビル──伝説のポケモンから名付けたのだろう(彼等が知ったらどう思うだろう)ビルの名は──『レックズ・ソラ』だ。
「天空にそびえ立つ塔か」
ニューラは少しだけ迷ったが、意を決して中へ踏み込んだ。
ビルの内部のポケモンの、蔑みの視線がニューラに突き刺さる。
今更気になるものでもないが。
受付のハピナスが訝しげにニューラを見る。
(ここに長居するのは危ない……とっとと済ませないと)
ハピナスが問いかける前にニューラはカウンターを思いきり殴った。
ビクッとハピナスは怯む。
「ここの──腹黒弁護士に用がある。二回は言わない。今すぐ出せッ!!」
「誰が腹黒だ」
ニューラに飛んできた鉛筆を慣れた様子でキャッチする。
「相変わらずの地獄耳だな、ルーク」
ルークと呼ばれたエイパムが資料片手に凛とした態度でニューラを見る。調度上層からおりてきた所らしい。転送機(ワープホール)前にいる。
「お前のバカ声どこにいても聞こえるからな。それで、今日は受付を殴って器物破損で捕まりにきたのか?」
「ついでにお前も殺傷未遂かなんかで逮捕だろ」
「大丈夫、バカの脳に当たってもなんともならん」
転送機から早歩きで出入口に向かう。
「死ぬっての。それで、この件なんだが……」
紙を見せる。
「ああ、知ってる。区画整理だろ」
そのまま並んで外に出る。
「ちょっと出かけてる間にこれだからな。ほんと目の敵扱いだ」
「実際そうだろ、スラム以外のやつらにとって、ここは危険以外の何物でもない」
「だが、ワタシたちにとっちゃあここで生まれて育ってきたんだ。今更死ねってのもムリなことだよな」
「相変わらず野性的な勘はいいな。この広告、より住みやすい環境を提示してるが、まずスラムのポケモンでろくに住む料金を払えるとは思えないからな」
スペースに停めてある一台の二輪機関……ようはバイクにまたがり、ヘルメットをつける。
「よし乗れ」
「……これほんと好きだよね」
「まあ発明品として夜に出回ってから日は浅いが、こいつは速いんだ。今の都会の交通手段はこれだ」
「おいおい冗談はよせよ、これだけカスタムして馬力をバカにあげてるのにただの移動手段なわけねぇだろ」
「趣味だってぐらい知ってるだろうが。ほらいくぞ、違法パーツは使ってないから安心しろ」
明らかに用意が良い、もう一つのヘルメットを手渡され、ニューラもつけ、後ろにまたがる。
「さーて、どこへいくんだい?」
「不当立ち退き命令の疑いで調査だな。弁護料は高くつくぞ?」
「払えたらスラムで暮らしてないっての!」
「知ってるよツケ魔!」
バイクを起動させて、炎エネルギーを力にし、エンジンが起動し――――
ドッドッドッ──と鈍い音が断続的に響いたかと思うと───一気に加速ッ。
突如かかったGに、ニューラは気分が悪くなった。
「……うっ」
そんなニューラにルークは笑顔で黒いことを言った。
「吐いたらここから蹴落とすからな」
「誰のせいだと思ってるッ」
凄い勢いで景色は流れ、ビル群を後に置いていく。
「速度出しすぎだ」
「速い方が気持ちいいんだ。それに早く着くだろ」
ニューラは呆れた。
バイクの速度を制限する法律は出来ないのだろうか。
気分はましになったが、暫くニューラは黙っていることにした。
「──ついたぞ」
キキィ、とバイクはパーキングの前で止まる。ニューラはヘルメットを脱ぎ、飛び降りた。
ルークはパーキング(店主のケッキングがやる気なく鼻をほじっている)にバイクを停め。
「もう夕方か……」
茜色の空を仰いだ。
「──いい時間だ。どうするにつれ、まずは下調べだな」
「やっぱり顔が利くねえ」
「もちろんお前は」
「待ってるよ、お尋ね者が役所に出入りするわけないだろ」
ルークは役所の扉を開け、振り返らずこっちに手を振りながら入っていった。
「さて、と」
確かここらへん、とバイクの椅子辺りをいじる。
すると、椅子の部分が開いて、中に手紙。
「変わってないな……」
手紙を開封すると、一枚の紙切れ。
(昔から、こういうどっかに手紙を隠して、ワタシに依頼ごっこしてたっけ……)
『依頼主 エイパム
内 容 機密資料の調査
場 所 グラン=シーの入り江
後で掘り出して使うつもりか、不思議のダンジョンの奥地に区画整理の機密資料を埋めたという情報がある。
真偽は不明だが、可能性は高い。また、何かしら向こうに不利な事が書いてある可能性もある。至急調査求む。
報 酬 区画整理によりスラムのポケモン追い出しだなんてさせない』
(追記 お守りは同じ所に か)
さらに探ってみるとボロボロの小さな巾着袋が。
「今回もやっぱりコレ便りだな……」
昔からこういう役回りで、ふざけてダンジョンにいくこともあった。だが、このお守りがあると不思議と『侵食』を受けなかった。
「さて、懐かしいねえ、この遊び……!」
ニューラは東へと走って行った……