3ー2 Death of start

◇ノラ
種族:オタチ
性別:♂
昔、右半分を傷つけられ包帯を巻いている。片目は見えない。
ニューラねぇちゃん大好き。


ここから監獄編へと入って行き、物語はさらに混沌を深めます。
ついでにいうと本来はプレイヤーそれぞれに違う内容になっていく(大筋はある)話なので、描かれない部分も数多く存在していきます。




数日後、護送馬車に連れ込まれ、走る。
全員安易な拘束具と適当な布を被せられているため、誰が何匹同席かは解らなかったがわかった所でロクな目には合わないだろう。

安易な拘束具で済む理由……きっとそれが全員バッドネスマーカーを付けられているせいだ。
暴れればたちまち倒れ込む事になる。試験用ということは暴走すらありうるのだから。

そのまま重い沈黙のなか、馬車が目的地へついたのか、全員降ろされる。

(どうやって逃げ出すんだっての……)

そんなことを思いつつ、誘導されるがままに移動する。
布のせいで下を向いて移動しているため、どういう風になっているかわからず歩く。これもここの方針か何かだろうか……。

「止まれ。お前はここだ」

♂の硬質な声がしたかと思うと、突然ポンと押され倒れ込む。

(チッ……)

心の中で舌打ちをする。
布が頭から落ちて、初めて周りを見渡す。

ニューラは拘束具を外され、部屋に一匹になった。

(……扉は二重。中からは開けられない)

無機質な小さな部屋──この部屋が自分の当分の寝所になるのだろうか──ワラの二段ベッドが2つ……

採光のための窓は高く、外は覗けない。

ニューラは暗記した見取図──本物は捨てた──を思い出す。

(この部屋は……たしか……)

その時、また足音がした。
入口に脱走防止の為、屈強なポケモンが2体並んだ。
そして扉が開く。

放り込まれたのは──……

「ぐあっ!?」
「ぬあっ!?」

二匹のこれまた悪そうな……
というかアーボックドラピオンが押し倒され中に入った。
拘束具の鍵を外され、布を取られる。
……より凶悪顔だ。

「同席だね。よろしく」

ニューラは足を組んで伸ばして座っている。

「……ちぃ。あん?ねぇちゃん先にいたのか」

ドラピオンは背中にくっきりと印が浮かんでる。

「誰がねぇちゃんだ」

「なーにジロジロ見てやがる。やるか?やるのか?」

アーボックは顔の紋様部分にはっきりとある。これでは『へびにらみ』も効果半減だろう。

「出来ないからそれがあるんだろう」

ニューラはアーボックのバッドネスマーカーを指差す。

「こんなもの、やってみなきゃわかんねえだろうが!!」
ニューラに飛び掛かろうとするアーボック
ニューラは顔色ひとつ変えない。そのかわりアーボックの右側の矛先が光る。

「うぎゃあぁ………!!」

後ろに吹っ飛びのたうち回る。

「おいおい大丈夫か!?」

ドラピオンがすぐに様子を見る。仲が良いのだろうか。

「ごめん、ごめんよ母さん……!」

光が消えて行く間に変な事を口走るアーボック
爬虫類なのにマザコンなのだろうか。

(なるほど、これが攻撃の戒めと、よくは分からないけど思い出させる、というやつね……)

「殺す気か!」

なぜかアーボックが倒れ込みながらこっちに言葉を投げかける。

「ただの自滅だろうが」

「止めろよ!知ってるんならさ!」

いや、事前に保安員から解説を受けただろうに。

「なんだ、教えてもらったの覚えてないのか?」

「ねぇちゃん、コイツ戦いは出来るがなにぶんバカでよ……」

「まあ、今回ので解ったから何よりじゃないか」

「ところでねぇちゃん何やらかしたんだ?」

ドラピオンの問いをそのままニューラは返す。

「──アンタ達は?」

答えたのは先程痛い目にあったとは思えないほど元気なアーボックだ。

「おれたちを知らないとはモグリの犯罪者と見た! おれたちは悪評高い荒くれティーンエージャーギャング!! ボイズンクローの真ん中あたりのメンバーだ!」

「聞いたことないから。それに……真ん中?」

アーボック……、間違ってねぇけどそれ言うと自慢にならねぇだろ?」

ドラピオンがつっこむ。

「まぁ……んな所で、恐喝したり喧嘩したりと。ねぇちゃんも似たような感じかな?」

違うのだが、わざわざ説明するのが億劫だったニューラは頷く。

「しかし♂♀同室って……そこまで印を信用してるってか? あの野郎共……」

ニューラは天井の隅を見る。
巧妙に隠されて入るが、あの壁の一部はマジックミラーのようになっている筈だ。

「何かが起こるのを待っているんだろう。後は───餓鬼扱いしてるんだろうな」

「だもんなぁ。明日から勉強させられるとか聞いたけど……嫌だなぁ、ドラピオン

「……この機会だし、お前、読み書きをみっちり教えて貰えば?」

「そりゃないぜ、ドラピオ〜ン……」

「半分冗談だ」

「Σ半分本気!?」

どうやら見た目ほど凶悪でも無さそうな二匹に、ニューラは少しだけ安堵する。

(それもそうだ……『研究材料』なら……社会復帰できない程のポケモンは用いないか……)

見取図を思い出す。
ニャルマーの台詞を反芻する。

(暫くは飼い殺されたフリをするしかない……)




今回の脱獄計画は30日以内にやる必要がある。
それ以上かかると保証ができないという忠告が脱獄計画の紙に書いてあった。

(何か危険な事が始まる期間ということか……。
 昨日はバカ二頭相手してたら終わったな。移動に時間がかかったと思ったが、夜になっていたのか。食事は二回、きのみが適当とモーモーミルク250ml。水は希望すれば基本いつでも出してもらえるか……。怪しいな)

ただのブタ箱でない事はすでに分かっているので、全てを怪しんで、かつ味方に付けて行くしかない。

「囚ポケモン0021、0020、0019。時間だ。起床しろ」

二重の扉が開く。

「もう起きてるよ」

(さて、せめて自分のセンスを信じて早く抜け出すか……)

【研究兼監獄施設 イージス・ペンタゴラム ―護るための研究施設― 残り29日】