3ー7 Shaking mind

物語の真実は……の前に……

「♪」

アーボックは鼻唄を歌いながら、″商品″を見比べている。

「これとかどーよ!」

アーボックは″トランセル抱き枕″を尾の先で指した。

「それはねぇと思う」

特別授業の翌日──の夕方。
ニューラ達は、販売所を訪れていた。監視付きだが。

鉱山と、昨日のダンジョン突破の報酬で得られたポイントで何が貰えるのか見に来たのだ。
因みにヨーギラスは一匹、部屋に残っている。

(毛布、ロープ──ここはポケモンを脱走させたいのか?)

「ねぇちゃん♪」

目当てのものを手に入れ上機嫌のアーボックが話しかけてきた。

「何か───」

ひょい、と何か頭の上に乗せられたのを感じる。

片手で掴み、下ろす。
林檎だ。それも──見たことのない、高級そうな林檎だった。

「……セカイイチ?」

「昨日のお礼。オレは何もしてねぇし、これぐらいはな。しっかし……セカイイチまで売ってるとはな……」

アーボックはウィンクして、ドラピオンのところへ戻っていく。

「───フンッ」

(バカなのか、律義なのか)

因みに昨日のキノコ騒動はドラピオンがダンジョンに落ちてたキノコを食べたから起きたらしい。
ああいう毒々しいものをよく食べる気になったものだ。

(まぁ、貰っておくか)

ニューラは指先でセカイイチをくるくる回した。




【後25日】

そろそろ自由度が増す【後23日】に迫ってきた。
今日は『授業』としてはかなりの変わり種をやるらしい。という噂が広まっている。

「な、なんか相当ヤバイって話だぜ……」

アーボックドラピオンに話している。

「いやー、オレの聞いた話だと一番楽だってよ」

(ウワサがさっきから持ち切りだねえ……)


そして、『授業』――

(((……へ?)))

キャッキャッとはしゃぐ子供達。

「ぼそり(お前たち、怖い顔をするな。怖がるだろう!今日の授業は子供とのふれあい教室だ!)」

監獄員が一番怖い目でそう言う。

(一体何をさせたいんだ?ここは……)

そう疑問に思いつつ、ニューラは慣れた手つきで子供達の輪に入る。

「あ、ねぇちゃん!?」

「いきなり入って行くとはなあ……」

様々な声が入り乱れる中、ニューラは自慢の耳で聞き取りつつ答える。

「「「「ねぼオレくがのー!えおおもうもちゃはさきぜんぶだぞ!ねえこおれののおもちゃちゃなねむいんんは!ん、いっだー!しょにあそだよねぇん。で!」」」」

「はいはいいっしょに遊ぼうね〜」

「そこの二匹、おもちゃはみんなで遊ぼうよ!ね?」

「それじゃあ近くの怖いお兄ちゃんに眠る所に連れていってもらおうね〜」

(こうやってると、アイツらを思い出すな……)

子供ポケモンの顔に、スラム街の子供たちの顔が重なる。

ちなみに、零番ことヨーギラスは吹っ飛ばす危険があったので不参加。
今回の授業ではガマンの限界で攻撃の戒めを最も多くのポケモンたちが発動させた事で有名となった。(もちろん監獄内で。)
もちろんニューラは誰が見ても最も評価の高い振る舞いが出来ていた。

【後24日】



今日も朝礼があり、ニューラは3000IPと表彰状を貰うことになった。昨日の行動が評価されたらしい。

「…………」

ニューラは黙って表彰状を受け取ったが……

教室の椅子に座るなり真ん中からビリビリ破り、くしゃっと丸めてクズかごに放り投げた。

「…………」

見ていたヨーギラスが不思議そう(ニューラにそう見えるだけかもしれないが)にしている。

「どう取り繕っても、ここは研究所でワタシ達はモルモットなんだ──」

「………明日」

「?」

ニューラはヨーギラスの呟いた意味がよく分からなかった。

無駄だと思いながらも聞き直そうとしたのだが───

「だぁあ! 同じにしか見えねぇ!!」

アーボックがイライラして″はじめてのあしあともじ″と書かれた本を吹っ飛ばした。

「「…………」」

足型文字は公用語ほどでは無いが、準公用語として多い文字で、基本的に読めるポケモンは多い。実際よっぽどじゃない限り読めるものなのだが……

(あのクラスの学びを受けてるのアイツだけだよな……始めにも終わりにも)



一通りラストの新授業――組み手練習だったが。それも終わり、部屋に戻る。

(さて、このポイントを誰に売ったりして情報を得るか……とにかく自由な時間が無いな)

部屋でそれぞれがゆっくりしている時、

「……◆#%#$」

ヨーギラスが覚えの無い言語のようなものを発した。アーボックの方に向いて。

「……ん?お前、もしかしてアマガ語知ってるのか!?」
(アマガ……?)

「$#¥◆◇〇」

「だからあんまり喋ん無かったのもあるのか〜!」

アーボック、そいつの言ってる事分かるのか?」

ドラピオンが尋ねる。

「わかるも何も、オレの地元の言葉だよ!」

「そうなのか!?」

「へっ、まあもう影も形も無いんだけどな」

「……どういう事だ?」

「………」

ヨーギラスの顔が厳しくなるのを、ニューラは見逃さなかった。

「さあ、オレは良くは知らねえんだ。ただ、小さいとき街の方に行って戻ってきた時はもうみんないなくてよ……」
アーボック……」

「だからオレは地元をよみがえさせるために何としてでも勝ち上がるために地道にやってたんだがなあ〜」

アーボック!!」

ドラピオンが思わずアーボックにハグする。

「ドラピオーン……」

(方法はバカとしか言いようがない気もするが、分かりやすくて良いな……)

「◇〇$¥%」

「……え?『明日から気をつけた方が良い』?」

「¥%〇#◆」

「『この監獄の地獄の一丁目が始まる』……?どういう意味だ?ドラピオン?」

「さ、さあ……?」

(……!そういえば前の前の朝礼で何か言ってたな……)
「……」

「しゃ、喋れるなら黙るなよー」

アーボックが不安顔でヨーギラスを見る

「………」


そして……

【後23日】