3-8 Freedom in basket

本番、始動。


それは朝から違った。

有無を言わされず叩き起こされ、起きるのが少し遅れたドラピオンの──ポイントが引かれた。

「───な?! なっ?!」

「今日から、全て『ポイント』制だ。カリキュラムをこなせば加算、こなせなかったり問題を起こした場合──減点だ」

「ちょ、んなこと聞いてな」

「減点20」

アーボックはその言葉に絶句した。

「マイナスになると、ペナルティだ。生活必需品などもポイントと引き換えになる」

(これが噂に名高い地獄の──……)

ニューラは忌々しく監獄員を睨み付けた。視線に気づき、こちらを見たので瞬時に″満面の笑み″に変えた。

監獄員は去り、ルームメイト4匹で集まって会議になった。

「この一週間油断してた……」

「どうする? やらなきゃメシもねぇんだとよ」

「…………」

「ペナルティか……ロクなもんじゃないね」

「自由度が上がるってこれかよ……おい、アーボック、ニューラ──あと零、ここを見てみろ」

渡された紙の隅をドラピオンは指した。

「ひ……が……ま」

やはりアーボックは読めてなかったので、ドラピオンが読み上げる。

「『日が沈むまでに自室に戻らなければ、脱走と見なされ″悪徳の戒め″が発動する』だ」



今日は臨時朝礼があった。もちろん内容は゛本日からの変更点゛だ。

「゛自由゛とは他に迷惑などをかけない上である物だ。なので今後は社会と同等な規律の上で比較的自由な生活を送ってもらう」

さらに続いた内容によると、ダメという行為をすれば減点、勤勉だったりより活躍できれば加点、授業に出席するか働くか、または隙を持て余すかは自由だが、授業に出れば単位が習得でき、早くここから出れる。だが働かないともう支給の食事はない。また、授業としては無かったが研究に直接参加することで危ない橋だがリターンが大きい。ポイントと単位が習得できる。
定期的にイベントが向こうから用意したものがある。
ダンジョンでの作業や子供たちとの触れ合いがそれになる。

ちなみに農作業で採れたものは全て個人の物として監獄は一切干渉しないとのことだ。


(脱走するから単位はいらないが……それによる交流は魅力だな……。特に研究は印を作ったやつと会える良い機会だな……。だが向こうの事も知らないで行ってもただのモルモット。情報は……買うか)


「なお、聞いている者は多いだろうが、定刻まで各自所属の部屋に帰らねば悪徳の戒めが発動する」

(それだな……。リモート操作が出来るのか……?どうやってだ?いずにせよ、最初は、いらないと思ってたが時計を買えば楽にスケジュールが練れるか……)

「朝と夜、定刻までに部屋に入ればこちらでは下手な干渉はしない。そのぶんバックアップも期待できないと思ってくれ」

(朝は確か七の刻、夜は九の刻だったな……。そこの時に部屋にいれば、その後堂々と出ても干渉されないのは助かるね)

「それでは全員の拘束具を解除する。せめて良い社会適合者に復帰出来るのを祈る」

そういうと朝礼は終わり、全員の拘束具が外されて行く。だが当然バッドネスマーカーはある。これがどの拘束具よりも最強だろうが。


「……えー、21番のニューラ、だったな、また面会が来てるぞ」

この監視員、今までの担当とは違うが、前のみたいに機械的にこなしている感じはなく、少し自分に興味があるみたいだ、とニューラは感じた。
これを使わない手はない。

「ええ、すぐに行きます!」

とびっきりのサービススマイルと声色で答えると、監視員が照れてるらしく目を伏せ頭を書いている。
なんとも簡単なものだ。

そして再び゛面会゛へと向かった……



「ルーク、またここに来て大丈夫なのかい?」

「まぁな……」

ルークは″状況を説明してほしい″と伝える。

ニューラは的確に短く今までのこと、今からのことを伝える。

表面的には何でもないことを話しつつ───

″やはり悪評がたつだけのことはあるな……″

″大丈夫だ。スラム育ちを甘くみるなってことだ──″

面会はすぐに終わり、ニューラは面会室を出たその足で時計を買いに向かった──が。

同じことを考えているポケモンは多かったらしい。

(売り切れか……今日は注意して早く戻るしかないか)

ふと、監視員を思い出す。
懐柔できれば……いい情報が手に入るだろう。

今までつけたことのないリボンや花などが揃っているが──

ニューラは暫く悩んでいた。


その後、鉱山に向かう。

ダンジョンに近いと思われる壁面を掘りつつ、鉱石を集めていく。

(これぐらいでいいか──)

その瞬間、傍にいたポケモンに鉱石がかっさらわれた。

「──!」

──が、そのポケモンは突如がくりと崩れ落ちた。バッドネスマーカーが激しく光っている。

ニューラはそのポケモンに近づいた──そのポケモンは立ち上がろうとして頭から転び。

「いやだ──いやだっ……」

何を″思い出し″ているのだろうか、顔が恐怖に染まり、やがて全く動けなくなる──これが。

(″悪徳の戒め″)

入口にいた監視員がそれに気づき、担架でそのポケモンを連れていった。恐らく研究室行きだ。

(……洒落にならないね)

とりあえず散らばった鉱石をかき集める──と、何故か増えている。

さっきのポケモンの分なのだろうが、自業自得なので遠慮なく貰っておくことにした。

ポイントに換えて、ニューラは早々に自室に戻った───


【後22日】