3-9 Snitch

立ち回りの勉強の時間です(


――と言ってもまだその真夜中だ。多分日付はかわった。
ニューラは正確な時間は分からなかったが、どう考えても真夜中という時間に一度起きた。

(悪い奴らは夜活動するクセがついてるはずだからな……。きっと昼の奴らとまた違う面が見れるはずだしな)

ドラピオンアーボックは見事に寝息をたててる。こういう所からもしたっぱの存在だとも分かる。

ヨーギラスは――いないようだ。


販売所は昼見なかったポケモンが担当していた。昼夜で交代してるのだろう。

そこで栄養剤を買って体力を維持する。
時計の入荷は明日だそうだ。

(さて……暗闇に隠れて動いてるやつらは……)

メインの照明を落としてあり、ちょっとした明かりがあるだけで暗い。
複数匹が予想通り何をするでなくぶらついていた。

ニューラは適当に近寄ったり離れたり、次々数匹のポケモンたちに近づく。

すると――

「なあ、俺のどうぐ、特別に作った奴だが買わないか?」
「ねぇちゃん確かカネ持ってたよな?昼間の仕事、代わりに受けてやろうか?」


こんな感じにたくさん声をかけられた。

「そうだ、情報屋、知らない?」

少し色っぽく声をかける。

「そうだな――その情報は俺が持ってるよ」

一匹名乗りでた。暗くてよく見えないが。

「俺は農家からの出身でな、土いじりなら俺に任せてくれ」

遠回しな言い方だが、どうやら契約すれば教えるとの事だ。

「おいくら?」

ニューラは自分で自分の声がちょっと気味が悪い感じがしつつ、それを表に出さないように尋ねた。

「そうだな……収穫ごとに500だ」

「ちょっと、オマケしてくれない?」

「ふーむ、450!」

「すっきりさせて400とか……」

「うーん、そうだねえ…… 」

「アナタの腕次第、ともあるけど……」

「じゃあ俺のデキ具合を見てもう一回見てくれ」

「分かったわ。成立ね」

「ああ、それで情報屋の場所は――」


ニューラは指定された場所へと向かう。

調度光がまったく届かない隅……

「お前が私を探してるということは聞いてる」

相手はどうやら♀のようだ。暗くて相手が確認できない分、厳しいところがある。

「研究員の情報だろう?今回は私を信頼してもらうためにもタダで提供してやろう。そっちが喋る必要は無い」

どうやらかなりやり手のようだ。

「研究員の責任者はかなりのオタクだ。性格は温厚で、ここの監獄内全員のプロフィールを把握してある。声色は効かない。だが親身に接してくれるのは好きなようだ。まずはそいつが欲しがっている完全導体を入手するのが先決だろう」

何だろうかそれは。

「完全導体の意味は知らなくて良い。というか専門的すぎる。それはいつも腹を空かしているタツベイだ。そいつはきのみじゃない食事も欲しがってる。デキの良い野菜でも持って行ってやれ。偶然掘り出したいらないモノだから、価値も知らず渡すはずだ。こんな感じだ、じゃあな」

そして気配が消えた。

(なんだったんだ……?だが、とりあえず情報は手に入ったな……今日はひとまず眠るか……)



そして朝……

時計を買ってからニューラはさっそく農地に向かった。前の実習で植えた野菜が幾つかあったが、まだ花すら咲いていない。

(どうするか……)

「お、ねぇちゃん。こっちに来てたのか」

声にニューラは振り向いた。
珍しく一匹でいるドラピオンが、大きな鋤(すき)を引き摺り一気に耕している。

「ああ、アーボックは今、読み書きに苦戦してるところでよ」

言いながら畑を往復する。
みるみるうちに耕されていく。

(意外と力があるな)

「こんな感じでいいか?」

「ええ。ではポイントを」

どうやらポイントと引き換えに力仕事を頼まれていたらしい。
ドラピオンは、その小さいポケモンから150ポイントを貰う。

IPのこういった譲渡は、渡す側が受け取る側のバッドネスマーカーに触れることで行われる。
誤魔化したり騙したりすれば即″悪徳の戒め″で倒れるはめになる──のだが、根に染みついたそういう根性はなかなか取れず、『少し位なら』と馬鹿な行動をしたポケモン達が倒れては担架で運ばれていく──……

ポイントを受け取り終えたドラピオンに、ニューラは聞いた。

「野菜が欲しいんだが、買える場所を知らないか?」

「それなら──……」



(なんだ、こいつか……)

言われた場所に来てみれば、昨日契約したポケモン――ヌマクローだった。

「おおー、昨日の!いや、今日の真夜中だったかな……とにかく見てくれ!」

「あ、はーい!(声色)」

見せて貰ったのはとてもこちらと似たようなものを育ててるとは思えない早さで収穫された、土付きの野菜たち。

「どーかなー?だいぶ頑張ってみたんだけど……」

なぜこんなにも良いものが作れて良い笑顔なのに、こんな所にいるのだろう。不思議な物だったが……

(一番良いものを選んで……と。これは直接持って行くか)

「うん、いいわね、それじゃあ今回はオマケしちゃう(はあと)」

そう言ってポイントを少し多めに譲渡しておいた。

(後でさらに頑張ってもらうか……)

「へへ……ホントにいいのかい?毎度あり、野菜たちはおねえさんの部屋に置いておくよ。あ、俺の名前はヤチェだよ」

(次はこの野菜を……タツベイだったな)

ニューラ自身は野菜の事にはあまり興味が無かったので名前は知らなかったが、実にまるまるとした大きい白い野菜だった。


タツベイはすぐに分かった。
昨日も見かけるたびに早弁していたアイツの事だろう。

(確か……この時間なら自分の部屋だな)


行けばすぐに見つかった。予想通りもう何か買おうか、悩んでいた。

ニューラはさりげなく近づき、目の前にカブを置く。

「……!」

「実はほしいモノがあるんだけど……」