3-10 Calm doctor
驚異的事実が……?
「これをくれるのかい!? ……え? 拾ったもの? 食べられないから興味なくて適当にうっちゃったからなぁ……ああ、あった、あった。これだね。こんなのでいいの? これ、いい野菜だよね。どこから手に入れたの? またいい野菜があったら卸してよ。たまに拾える珍しいものをあげるから。え? いいの? やったぁ〜! ぼくの名前は『まんぷく』って言うんだ。これからよろしくね、ニューラ」「…………」
答える前から矢継ぎ早に話されてニューラは少し混乱した。
「あ、ああ」
とりあえずタツベイから部品を受け取り、自室に向かい歩いていた──その時だった。
「●×◇※△!!!」
どこかで聞いたことのある声がしたかと思うと───監視員が窓から吹っ飛ばされた。
「ヨーギラス!」
アーボックが慌てていた。
ヨーギラスのバッドネスマーカーが光っている──苦痛に、ヨーギラスは顔を歪めた。″攻撃の戒め″が発動したのにも関わらず殴りかかったのだろう、その精神力には感心する。
「あんなこと言われたらキレるよな……うんうん、分かるぜ。でも大丈夫か?」
「@*#◎▽……」
「……どうするかなぁ……」
アーボックは窓の下をそっと覗き込んだ。
(何があったんだ……?)
ニューラは巻き込まれてこちらも罰則を喰らわないように隠れて見る。
アーボックが覗いた先では……
「……てて、わっ、ヒィィィ!ごめんなさい!!助けてーー!!」
「……どうなるかと思ったけど、思ったより元気そうだったなあ……」
「………」
(やっぱり揉め事か……?夜にでも聞いて見るか……)
研究を受けに、ラボへ近づこうとするが……
「ダメだ、この先は立ち入り禁止区域だ!」
「研究を受けに来たんですが……」
「アポを取ってるのか?」
(しまった、アポイントがいるのか……)
「いえ、実はまだなんです。でも……」完全導体を見せる。
「これを博士に見せてくれればきっと……」
「これを……何だこれは」
「博士にしか価値が分かりませんから……」
「まあいい、一旦預かる。そこで待ってろ」
監獄員の一頭が受け取り、ラボへ入る。
――と、扉が勢いよく開き、ダッシュで白衣を着たポケモンが必死な剣幕でニューラに迫る。
「コレを見つけたのはキミかい!?」
「は、はい……」
博士、もといヤドキングは至極嬉しそうな顔をしてニューラを研究室の内部に招いた。
(──いいのか?)
何はともあれ、研究室だ。
怪しげな実験道具や難しい文字で書かれた書類が散らかっている。「いやぁ、ずっと探していたんだ。完全導体さえあれば今まで出来なかったことも……」
ヤドキングはホクホクして『完全導体』のウンチクを語り出す。
専門知識のないニューラにはよく分からない難しい話だったが……興味のあるフリをして小一時間聞き続けた──……「───ああ、少し話しすぎちゃったね。つまんなかった?」
「いえ、とても面白い話でした」
にこり、とニューラは笑った。
そろそろ話を振る。
まずは当たり障りのない話から。「ここでの研究は大変そうですね……博士がバッドネスマーカーを開発されたのですか?」
「チームで研究してるから──僕だけじゃないんだけど……一応、開発したことになるね」
ヤドキングは頭(の貝)を掻いた。
「正直、この実験はどうかと思うんだ。試験段階の──危険なものだからね。これが開発中の時に──自ら実験体になった研究員が大怪我をしてね。結局、こちらで実験できたのは″攻撃の戒め″だけ、それも不完全なもの」
「だけど、導入された」
「そう。上の意向でね。あちらの理想は『犯罪が起きない社会』だからね──最終的に全てのポケモンに軽度の″マーカー″をつけるのが目標なんだとかで」
「──っ」
ニューラの毛が逆立った。
ヤドキングは続ける。
「覚悟しておいた方がいい──この実験は──何が起きても『成功』とされる。そして恐らくは──何匹かは何もしていなくても″罪行の戒め″によって…………」
「この施設から″事故″でいなくなる」
「それは……許される事なのですか?」
「あ、敬語じゃなくて良いよ。多分厳重に無かったことになるに違いない。独り身のポケモンが特にその対象になりやすいんだろうね……」
ようは、保管され外部にでない情報は事故と明記され、罪行の戒めが発動して゛させた゛事は永久にどこにも記されない闇歴史となるのだ。
「昔はここはもっと健全でなおかつ研究には適した場所だったんだ――
確かに裏社会では洗脳と言われるほど見違えるような社会適合者になっていったはずだ。けれどあれは私達研究チームが徹底して改心させる技術を研究した結果だった……!」言葉に熱が篭(こも)る。
「……―と。元々ここは犯罪者がどうやったらより良い一般になれるか、またはなぜ犯罪が起きてしまうか等、そういうものを徹底して追求していく所だったんだ。私はそういう保安ものの話や科学が好きでね」
ニューラに茶(ティー)を出す。ニューラはそれをどうするかためらう。
「ああ、毒薬は入ってないよ」
「あ、じゃあ……」
お互いに茶をすすりながら話を続ける。
「でも、偶然できた゛ソレ゛は決してあってはいけないものなんだ。実はここから先は僕の憶測なんだけど……ってヤバイ!」
ニューラがチラッと時計を見た時にハカセも掛け時計を見て慌てる。
「そろそろ部下たちが帰ってくる!アポイントを取ってないキミがここにいたら危ない!早く出てしまった方が良い!」
ニューラは急かされ、慌ててラボを出る。
(――…はっ、しまった、思わず勢いに飲まれてしまったじゃないか!だが勝手に色々しゃべってくれたな……。だが、最後のが気になるな……)
その後、その事が頭を巡って授業を受ける気にはならなかったので単純作業の鉱石採掘で時間を潰した――
夕方、自室に戻る。
「何を話してるんだ?」
「なっ、何でもねーよ!!」
アーボックは慌てて首を横に振る。逆に怪しい。
「昼、監獄員を窓の外に吹っ飛ばした件か?」
「どこでそれを……」
「見ていた」
「……まァ、あの野郎に侮辱されてムカついて殴っただけで……でもなぁ……」
アーボックは言葉を濁す。
「それで減点されて、こいつのポイントがマイナスになったんだ。そして明日──″ペナルティ″があるらしくて」
「ペナルティ……」
そういえば説明があった。
ポイントが0以下になると、ペナルティがあると。何か──嫌な予感がした。
【後21日】