Conscience
「タダで料理が食えるらしいぜ」
「──ホントか!?」
監獄内はその話で持ちきりだ。
そんな声を聞きながらニューラたちは借りた部屋(ポイントと引き換えに借りれる大部屋があった)に監獄内からかき集めたテーブルを集め、料理を並べる。
「うまそーだなぁ……」
「いーにおいだ……」手伝わされているドラピオンとアーボックは今にもよだれをたらしそうな感じだ。
タツベイ・まんぷくと同室のトロピウスとチェリンボ(キノコの生えたチェリンボ本人だった)も椅子を持ってきたりと手伝わされている。
「よし、準備オッケーだよ。みんなには伝わったかな?」
料理の香りと流した噂に誘われた十数匹のポケモンが入口付近に集まっていた。
勿論、警戒した監視員らも集まってきていた。チェリンボが成り行きを説明すると、とても意外そうな顔をした。(……ヨーギラスは、っと)
ニューラは姿を探す───丁度鉱山帰りらしく、この騒動に頭をひねっている。
ニューラは近づいた。
「ご苦労さま。ありがとね。じゃあ、これは報酬」
触るよ、と確認してからマーカーに触れてポイントを少し多めに渡しておいた。
あの後、朝礼で晒し者にされ凹むかと思いきや──鉄面皮さながら全く動じていなかった。
あれから、たまにポケモンに意味ありげな目線で見られているが、ヨーギラスは無視以前に気づこうとすらしていない。(これくらい、どうってことないということか)
ここにいるポケモンがまともな生活をしてきたとは思わないが、ヨーギラスが背負う影はとりわけ黒く濃いのだろう──
「ひーふーみーよー…………………………みんないるね」
まんぷくは、紙を丸めたメガホンを口に当てて息を吸った。
そして───
その日、ほとんど全員で食べた食事。
それはとてもおいしく……
賑やかで……
善も悪も無く、ただ同じ釜の飯を食べあって――だれもが笑い、心の底から信用出来るような気がした。
何でこんなポケモンたちがこうなってしまったのか……それがお互い全くわからなくなるほどに……だけどニューラは脳裏に目的が潜んでいた。
脱走して、印の解除法を奪う。
だがそれはここのポケモンたちを裏切るということ――今だけは、そんな思いを封印して、愉しもうとした――
この先、更なる思惑が張り巡られていようとも―――
夕方、ニューラは包んでおいた料理を持ちラボを訪れた。
「おすそわけなんだけど」
「ああ、ありがとう! そういえばパーティーしたんだって? 異例のことだからか、カイリキーさんが『こういう行動は大丈夫か』とまで聞きに来てさぁ。暴動に発展するとでも思ったのかな」
ハカセは肩をすくめた。
ラボの中では食べれないから、と言ってヤドキングは側に居た研究員に暫く自室に戻る旨を伝えた。
ニューラは、ラボの近くの部屋、ヤドキングの自室に招かれた。
研究室とほぼ変わりない。違うのはベッドがあるくらいだ。(ここで寝泊まりしてるのか……)
ふと、棚を見ると。
″マル秘″と書かれたファイルが幾つも並んでいる。(……ワタシを部屋に入れてよかったのか?)
「ああ、それはここのポケモン達の身体データだよ。大して重要な秘密でもないんだ」
ヤドキングは頭を指差した。
「本当に大切なものはここにあるからね───僕は一度記憶したものは二度と忘れないんだ」
(やっぱりバッドネスマーカーの事はハカセから引き出すしかないか……)
「さて、と――失礼」
食事をしつつ話を続ける。
「前はどこまで話たっけ?」
「ハカセの推測の話の前だね」
「そうそう、よく覚えておいてくれたね。
あんまり推測の話を声たかだかとは言えないんだが――」顔をお互い近づけ、極力小さな声で続ける。
「上はこれを兵器のひとつとして利用して大陸全土を支配下に置く計画を推進してるかも知れないんだ」
「兵器……支配!?」
「兵器は相手を攻め殺傷させるための無情な道具の事――全てを支配して意のままに操る気かもしれないんだ」
「だけど、何故?」
「少しだけだけど状況証拠があるんだ。少しはしょるけど、上の動きがどうもおかしいんだ」
「なぜそれをワタシなんかに?」
「そ、それワタシ達の!?」
「静かに……(隠しで何百枚も写真を撮るモノがあそこについてたんだ)」
「わ、悪い……(まさか、アレだけで理解を?)」
「続けるよ(頭の方には自信があってね)」
「それで……どう?その料理(じゃあワタシたちの話も……)」
「うん、本当にうまいよ(大丈夫、僕しかそのことを知らない)」
「口に合ってなにより(一体何を考えて……)」
「またいつか頼むよ(まあまあ……僕も信用する相手は選んでるという事だ)」
表面上雑談を続けてジェスチャー会話を続ける。
「(どうやら最近僕も監視がついたらしくてね、盗聴されてる)」
「(盗み聞き……さっきまでのは大丈夫だったのか?)」
「(相手が聞いてる時と聞いてない時を逆探知して調べあげた。パターンを解析してね)」「(だが、なぜ盗聴なんか?)」
「(どうやら私が感づいてる事を上が感づいたらしくてね……自由に動けない)」
「(……だから゛盗まれる゛ワタシを?)」
「(まあ、そういう事もあるけど……ね)」
ハカセは続ける。
「(君の目的は、バッドネスマーカーの解錠方法だね。違うかい?)」
「…………」
ニューラの沈黙(喋っていた訳ではないが)を肯定と受け取ったヤドキングは、一枚の紙を取り出してニューラに渡した。
「(ここに隣接している研究施設──そこに″あるもの″が厳重に保管されている。それが、バッドネスマーカーを解く鍵となる。解錠方法は分かっても、それがないと解錠出来ないんだ)」
「(それを手に入れれば──)」
「(だけど、僕には見張りがついているし、怪しい行動はできない。君が盗ろうとすれば″悪徳の戒め″が発動する──だから)」
「───……」
続けられたコトバ(動作)にニューラは目を見開いた。
「(協力しようか。僕はこの研究を止めるために、君はここから逃げ出すために──)」
「さて、そろそろ研究に戻ろう。ごちそうさま(返事は……後日)」
「まんぷくに満足そうだったと伝えておきます(……分かった)」
ラボから出た後もしばらく考えにふける。
ニューラにとってはハカセのそこまでしてのメリットが理解しづらかった。
夜――
「ねぇちゃん、どうしたそんな顔をして?」
ドラピオンが尋ねる。
「……デリカシーが無いね、ドラピオン」
「え!?俺何か変な事言ったか!?」
もちろん考えていた事は脱走の協力の件。デリカシーうんぬんの話は前言われたしかえしだった。
もちろん、ハカセの協力は計画にはない。
だが、もし本当に協力して貰えれば成功率は大幅に増す。
だが裏切ったら?そもそもこういう風に゛実験゛するためだったら?
考えれば考えるほど無限スパイラルに陥って行った。
そのまま日は過ぎて行き……
ニューラは模倣囚として周りの信頼を高めるも……
この先、彼らを裏切り利用せねばならないと考えると……
少し、自分には無いと思っていた良心が痛んだ―――
【後15日】